第20話:日本に行ってしまったタイ娘の救出劇 彼女を救いたい気持ちは高まるばかり

指示された車がやって来て、4人で乗り込んだ。お金を支払う為に移動するとの事だった。
30分以上走った。もしかしてヤバい所へ連れて行かれるのか?内心ビクビクしていた。着いた場所は隣町のママさんのアパート付近だった。
駐車場に止まったワゴン車の隣に、別のワゴン車が止まってた。その中から人が出て来て、僕とTさんだけ隣の車に移るよう言われ。
乗り込んだ途端に、走り出して女の子達と離れ離れに… なんて事は無いのだろうか?疑えば疑うほど、危険な場面だった。
まるで事件ドラマの現金引き渡し場面だ。ただ、今の僕達にはその指示に従うしかなかった。
車の中には、昨晩店にいたママさんが載っていた。

「日本のボスから聞きました。お金は用意してありますか?」
「はい、ここで支払えば本当に彼女達は帰れるんですね?」
「大丈夫、もう女の子達は仕事をしなくてもいいし、明後日の便で帰れます」
「間違いないですね、なら支払います」
※彼女は、行く前は不安そうだったが帰りは笑顔がこぼれていた

僕は彼女と一緒にお金を数え、ママさんに支払った。
領収書もチケットも無い。疑って気分を損ねられ、やっぱり… そんな事になるのを恐れていたので、余計な口は挟めなかった。
Tさんも黙って支払った。タイ人に日本円を支払うって、なんか変な感じがした。
ママさんが、後でチケットを届ける、と言われその場を離れた。

日本に連れて来られる女の子達の実態は?

帰りの車の中で、運転手と少し話した。やはり警察の目がうるさくて、店や宿を転々とせざる得ない事。
女の子が逃げ出さない様に管理されている事。連れて来られても逃げ出す女の子も多い事。警察に逃げ込まれたら、その場でチャラとの事。
頑張ってお金を手にして帰る子もいるとの事。常連客には店まで送迎があるとの事。
それでも女は次々にやって来るので、お客はいくらでも着くと言っていた事。こ
れが外国人不法就労者の実態だった。

帰りの車の中では、女の子達は無口だった。その車でタイのカラオケ店に連れて行って貰った。
何とか問題はクリア出来そうなので、4人で乾杯だ。昨晩、弾けていた女の子達は、気が抜けたようにおとなしくなっていた。
いろいろ思う事もあるのだろう。
Tさんとは初対面、しかも僕とYさんにとって、ラン島での恨む存在だったのだが
いざ、こうやって2人の女の子達の救出の為、力を合わせ時間を共にした今、恨むよりも感謝の気持ちの方が強くなっていた。

やっと救出の糸口が見え、安堵に浸った

この日は午後9時までタイカラオケ屋で過ごした。
Tさんも僕も、何かを成し遂げたという気持ちがあり、カラオケで弾けた。
丁度、運転手からチケットが届けられ、4人で歓喜をあげ、さらに盛り上がった。
※たかが紙切れ1枚、こんなので帰れるの?と言うがされども紙切れ1枚、どれだけ苦労した事か、解って無いだろうな

いつしか、お互いの彼女とラブラブタイムになっていた。
店を出ると、彼女は店の車で連れて行かれた。Tさんとシスターは、僕を駅まで見送り、ホテルに消えて行った。
僕も彼女と一緒に居たかったが、終電で実家に帰らなければならなかった。
今回の訪日の目的は、父の七回忌でもあったからだ。

翌朝、お寺に向かい、無事に七回忌を終えると、昼過ぎ、僕は彼女の元に急いだ。
明日は、無事にタイに帰る事が出来るのか?
万一、チケットが手配されていないとか、怖い人が彼女達を連れに来はしないか?帰る姿を最後まで見届けたかった。

いよいよ救出の秒読みが始まった!

夕方、彼女・シスター・Tさんの3人と合流した。
昨晩、ひとりだった彼女は、寂しかっただろうと思ったが、気の強い彼女は決して寂しい面を見せなかったそうだ。
帰国の話を聞いた同室の台湾人娘達が、寝付いた所にこれ食べるか?あれ食べるか?とうるさくて眠れなかったらしい。
少しの間でも、同じ仲間として、一緒に働いた彼女の帰国を喜んでくれたらしい。
そんな事をあれこれ話してくれる彼女の涙ぐんだ瞳には、僕の姿が映っていた。
彼女と2人でシスターのトランクも持ち、ホテルにチェックインした。2人とも、トランクを転がして…まるで新婚旅行みたいだった。
いつか…いつかきっと…

店から引き上げて来たトランクを部屋に運び、2人になった時、目と目が合うと、どちらとも無く抱き合っていた。
彼女は、私を信じて、と言うが、こんなに若くて可愛い(僕にとっては)女の子が、こんなおやじにいつまで一緒にいてくれるのか、時々考えてしまう。
お金無いよ、と言うと、それでもいいと言ってくれた。
その割には、次々とお金を使わされるが…黙って出してしまう自分がいけないのだろうか?

つづく。

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