チェンライ県(下):早撃二郎のタイ77県珍紀行

健康優良、少し肥満の肉食男児がタイ全土を駆け巡り、若干の観光を楽しみながらも最後には現地の女の尻を追うという世にも奇妙な珍紀行だ。
底冷えのする明け方のメーサイの街角で一人、女を待つ二郎。時計の針はすでに5時を回っていた。果たして女は現れるのか!

人っ子ひとり歩いていないメーサイ!

ども、二郎です。
あの日、僕はレンタカーの中でどこまでも待とうと本気で思ったんだ。だってせっかく掴んだ国境の地でのビッグチャンス。
ちょっと年齢は行っていたけど、スレンダーの僕好みだったし何しろ明るくて少し控えめで話しが合った。
一緒にいて朝飯を食うだけでもいい!そんなふうにも思ったよ。

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深夜のメーサイの様子。人っ子ひとり歩いておらず不気味な雰囲気だった。

ところがね、午前5時、5時半、6時、6時半…。時間ばかりが過ぎていく。
空もだんだんと明るくなってきた。車内で一人りぼっちの僕の気持ちは焦るばかり。

「(仕事終わりは)早くて4時」と言っていたから、「いくら何でも7時はないだろう」と思って
7時少し前に彼女の電話番号にダイヤルしてみたんだ。

プルプルプル…。ガチャ。「ハロー」

疲れ切ってはいたが確かに彼女の声だった。

「どうしたんだ?待っていたんだぞ」

「えっ、だっていなかったじゃない」

「電話してくれって言っただろう?」

「でも、回りに店のボーイさんたちがいたし…」

僕は大声を出して怒鳴りたい気持ちをできるだけ抑えて言った。

「分かった。また連絡する」

結局、彼女の真意は分からなかった。会って確かめたい気持ちもあった。
でも僕には前号でお知らせしたように「タイの地方都市をめぐる旅をしないか」という与えられたミッションがあった。
いくらキモオタ男児だからと言ってそんな勝手は許されない。

そう思って僕は次の訪問予定地としていたチェンライ県東北部チェンセーンとチェンコーンを目指すことにしたんだ。

後ろ髪を引かれながら次の目的地へ!

メーサイから目的地の終着チェンコーンまでは車で全長約110キロ余り。
アップダウンのきつい山岳道路とメコン川沿いの細長いわずかな台地を交互に繰り返す長旅だ。メーサイを出て山道を30分ほど走ったろうか。
最初の中継ポイントとなるメコン川沿線の街チェンセーンにあるゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)周辺の市街地が見えてきた。

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ールデントライアングルにある有名なモニュメント。 観光客が引っ切り無しに訪れていた。
ここはタイとミャンマー、ラオスの国境の三叉路。市街地といっても、川沿いのへばりついたわずかな土地に家々があるだけ。

ほかに何かがあるわけでもなく、展望台から遠くミャンマーやラオスを眺めるだけの観光地。単なる通過点に過ぎない。
それでも僕は降り立つと数枚の記念写真を撮り、時間を惜しむように車を滑らせた。

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タイ・ラオス・ミャンマーがが交差する地点。
黄金の三角地帯から10分も車を走らせるとチェンセーンの街並みが見えてきた。

ちょうど昼どき。
可愛いウェートレスでもいる浜辺の店でもないかと散々探したんだけどようやく見つかったのが川沿いに張り出した掘っ立て小屋のタイ料理屋だった。
少しだけ期待したけど店にいたのはやや歳のいったおばちゃんだけ。僕は勇気を振り絞って聞いた。

「おばちゃん、チェンセーンで女の子と遊べるところある?」

日本人がタイ語で聞いてきたからビックリしたのかおばちゃんは目を丸くしたがその後で言った。

「もう、この辺に置屋はないんだよ。一昨年だったかな、軍が来てね。全部、店を閉めろと言って来たんだ」

そうかチェンセーンもそうだったのか。

僕はすっかり落胆すると、ぬるくなったコーラを一気に飲み干した。

でも、諦めるもんか。最終目的地はまだまだ先だ。

チェンコーンへ到着!バービアへ!

ここから先チェンコーンまでは大きく分けて2つのルートがあった。
一つはメコン川沿いをしばらく走行後、山岳地帯に入り再び川沿いに至る北回りルートと大きく内陸部の丘陵地帯を迂回する南回りルート。

南回りの丘陵地帯にあると言われる少数民族の村々も見てみたかったけど市街地や置屋があるのはもっぱら川沿いだからと思って
直線でも短い距離の北回りのルートを選んだんだ。

だが少しだけ考えが甘かったというべきだった。
チェンセーンから先20分ほど進んだあたりから、地方道1290号線は山間部へと進路を替え道が急に細くなる。
しばらくすると路面も未舗装になって運転がしにくい状態となった。

拡張工事も同時に行われている模様で赤土に石が混じったガタガタ道で中央線もよく分からない。
おまけに対向車線を土砂を積んだトラックがひっきりなしに通り過ぎていく。両手は脂汗でまみれていた。

それでもどうにかチェンコーンの市街地に到着すると、僕はわずかばかりの市街地に宿を取り一目散と夜の街へと繰り出した。
陽はすっかりと暮れておりバービア街のネオンが僕の胸をときめかしてくれた。

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チェンコーンのメインストリート。 ぽつぽつとバービアの灯りが見える

簡単にメシを済ませて、僕はバービア巡りを進めた。
1件目はタイ人夫婦がオーナーのオープンバー。奥にビリヤードが1台あって壁にヌードのポスターが貼ってある。テーブルは4卓ほど。

ほかにカウンターが3席のこぢんまりとした店だった。
オーナーの奥さんが僕好みで経営者の妻と分かるまではこの子をナンパしようかと考えたほどだ。

時々、目を合わせてくれる仕草に心臓の鼓動は高鳴りを示していた。

「幸先いいぞ!」

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紫のライトが禍々しい雰囲気のバービアへ突入。

結局ほかに客が来ずウェートレスもいない小規模店。
奥さんの正体も分かってしまって僕はそそくさと会計すると斜め向かいに見えたちょっと怪しめのマッサージ屋を訪ねた。

「ヌアット・ダイマイ?(マッサージできるか)」

そう僕が聞くとできるという。

マッサージ嬢はそれなりに若めだがスマートフォンばかりいじっている。
それでも「スペシャル」ができるかもしれないという淡い期待に命運をかけた。さあ、頑張るぞ!

ところが、である。
迂闊だったというより他はない。ついてくれたマッサージ嬢はテクニックが抜群で、何の問題もなかった。
それなのに僕は事もあろうに夢の世界へと一人転落してしまったんだ。
気がついた時にはもう予定の1時間が経過した後。

「ここは、スペシャルあるの?」

帰りがけに女の子に聞いてみたが返ってきたのは判別不能な微笑みだけだった。

チェンコーンで女遊びは出来ない?

気を取り直して次のバーに向かった。
店先で二人連れの暇そうな女の子を見つけると

「いいかい?」

そう言って店内の椅子に腰掛けたが女の子達は注文を取ってお酌をしてくれた後はまた店頭に移動しておしゃべりを楽しんでいる。
おいおいおいおい俺は客だぞ。そう思って通りがかりの少し歳のいったウェートレスに聞いてみた。

「チェンコーンには女の子と遊べる店はないのかい?」

「そうねえ。2、3年前までは数軒あったけど、なくなってしまったわ。もちろん置屋もよ。どうしてかって?マイ・ルー(知らないわ)」

ガーン。僕のチェンコーンの旅はこの一言で終わりを告げた。もうだめだ、ここにいても…。
その時、ふと脳裏に蘇ったのが初日に苦労して見つけたメーサイのバー、ミャンマー人のあの子だった。
連絡先を書いた紙はまだ持っている。

「行ってみるか!」

一人つぶやいた僕は時計を見た。時刻は午前2時を過ぎようとしていた。

メーサイへ出発!男は性欲で強く・・・

目的があると人は、疲れていても朝早く起きることができる。
この日の僕もそうだった。床に就いたのは3時を回っていたが6時過ぎには爛々と目が輝いていた。

僕は近所のローカル店で朝飯を済ますと9時過ぎにはチェックアウトしてメーサイに戻ることにした。
往路と同様チェンセーンから黄金の三角地帯を経由した全長約110キロ余りの道のりだった。

メーサイには昼過ぎに着いた。

早速、一昨日の彼女にタイ語でLINEを送ってみた。「晩飯に行こう」
ところが返事がなかなか来ない。10分が経とうとしたころようやくスマホが音を出して僕を呼んだ。
彼女からのLINEメッセージだった。

驚いたことにテキストのない声だけのボイスメッセージだった。再生してみる。

「いいわ、出勤前に夕飯を食べましょう」
と録音があった。

でもなぜ声だけのメッセージ…?
その時、僕はハタと気がついた。彼女はタイ語を話せても、読み書きができないんだ。
そういえばバンコクで行きつけの定食屋もそうだった。ミャンマー人やカンボジア人は読み書きができない人が多いんだった。

脈があると分かれば次の行動は早かった。
彼女はバーの近くに住んでいると言っていた。
そこで僕は店からほど近いホテルを片っ端から当たっていった。1泊900バーツ。連れ込むことも考え、そこそこのホテルを予約した。

ミャンマー娘との再会!

午後6時。
彼女がバイクに乗って普段着で僕を迎えに来た。免許あるのかと聞くと

「メーサイ限定ならあるの」

後で説明を受けたのだがミャンマーからの越境後
地元警察で「メーサイ限定」とかいうIDカードを現金で購入するのが出稼ぎ労働者の常套手段らしい。
それを持っていればバイクなら運転できるのだという。
ただ話し半分、公式なものかどうかも分からないので、「俺が運転するよ」と言って彼女を後ろに乗せ案内されたちょっと小洒落たタイ料理屋に向かった。

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メーサイにもこんな洒落た飲食店がある。あれもこれもよく注文する。

日頃、美味いメシをあまり食べてはいないようだ。ただやっぱりどこか嬉しそう。
僕も何だか楽しくなって、たらふく食べ、ビールをたらふく飲んだ。

食べ終わると彼女はどこかへ電話していた。
もう9時に近かった。バーに出勤するなら着替えや化粧もあるだろうし、そろそろだろう。
ところが彼女は言う。

「お店に1000バーツ払えば、今日は出勤しなくていいの。お願い。払ってくれる?」

僕は鼻血が出そうなくらいに喜んだ。

「いよいよ、この子とできる!」

ところが店を出た彼女は、もう1軒知り合いの店に行きたいと言う。
一瞬えっ!?とも思ったがまあ時間も早いしそれもいいだろう。

そう判断すると僕は彼女の案内でメシ屋から10分くらいのバーに向かった。
アマチュアバンドが取っ替え引っ替えステージに登場するよくある若者のバーだ。

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大音量で流れる音楽に若者がわんさか。人酔いしてくる。

店には友達という女の子が待っていた。
聞くと同じ店の子だという。そのうちにもう一人加わって3人になった。

それにしても、よく飲み、よく喋る。ずっと、喋っている。
日頃のストレスを一気に発散しているかのようだ。

僕も最初は大声で話しの輪に加わっていたけど酔いと疲れから少しずつ口数が少なくなってとうとう目蓋も下がってきた。
いつしか船を漕いでいたようだ。

はっ、と気づくと彼女が僕の肩を揺すっていた。
2時間近くは寝ていたようだ。

「どうした?」

もう店を出るという。友達も出勤したのか帰宅したのか分からぬまま姿が見えなかった。
勘定を済まし外に出ると彼女は言った。

「貴方の部屋に行くわ」

本来ならここで飛び上がって喜ぶべきだったのだろう。
ところがこの日の僕はすっかりビールで出来上がり腹もパンパンに膨らんでいた。
このまま連れて帰って乗っかられて激しく動かれたらたまったもんじゃない。
もちろん上に乗る体力も気力もなくなっていた。

だが彼女はやる気満々だ。腕を組んで身体をくっつけて来る。流石にここで断っては男が下がるというものだ。
そう思い直すと僕はぎゅっと彼女を腹の脇に包み込んだ。

ほどなく僕らはホテルの部屋に転がり込んでいた。時計の針は午前零時を優に超えていた。

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めでたくベッドインできました!かなりエロい子で何度も求められ…。

早撃二郎の初ミッションはこうして幕を閉じた。
タイ・ミャンマー国境の地。軍政の監視が強まり置屋壊滅が進む中
いちご置屋の正体など課題はいくつか残したままなれどまずまずの成果だったと言うことができるだろう。

人生山あり谷あり。

キモオタ男児は明日も女を求めて辺境の旅を続ける。行く末にたとえ困難が待ち受けていたとしても。

「男がいるところに必ず女あり」

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