可愛いタイガールとの一夜の出会いを求めて、キモオタ肥満男がタイの全県を駆け巡る「早撃二郎のタイ77県珍紀行」は、今回が南国「プーケット編」の最終回。
2日目にプーケットタウンでお目当てのコンケーンガールを見つけた僕は、満足な夜を過ごし、最高の気分で翌朝を迎えた。師匠もその後、しっかりと彼女をゲットできたもようで、十分と鋭気を養ったご様子。フロントで顔を合わすと、健康そうな笑顔でニコニコしていた。
さぁて、この後はプーケット島最大の観光地・歓楽街のパトンビーチへ。師匠のバイクにまたがって、峠道を楽園に向けて疾走した。
新たなエロを探しパトンビーチへ!
誰もが名前ぐらいは一度は聞いたことがあるパトンビーチ。
正式には「プーケット県カトゥー郡タムボン・カマラー」というが、これでは観光客には通じない。
地元でも、カトゥー郡とさえもまず言わない。浜辺の名前を取った「パトン」のほうが、間違いなく通りがいい。
海岸線と平行に走るメイン通りを、海側から順に数えて1番、2番、3番の各通りと通称呼ぶ。
3番通り辺りまでが、ホテルや飲食店、マッサージ店などが集中している場所。その奥はだんだんと山となって民家も少なくなる。
猫の額ほどにしかないわずかに開けた場所に全てが集まっている。
同様に3番通りまであるパタヤビーチともよく似たロケーションだが、唯一違うのが、ともに一方通行である1番通りと2番通りの進行方向だ。
パタヤでは1番が南行、2番が北行であるのに対しパトンはその逆。
1番から2番、あるいは2番から1番に進入する際にも、パタヤが反時計回りなのに対し、パトンは時計回りとなる。
師匠のバイクがパトンに到着したのは午後1時すぎ。ホテルで休憩することもなく、僕らは荷物を預けると早速、街へと繰り出した。
目指すは、事前に師匠から詳細な情報を入手していたエロ・マッサージ店街。その名も「Y路(ワイジ)」
どんなガイドブックにも情報サイトにも出ていないこの通り。
いや、正確に言えば、この辺りにマッサージ店が建ち並んでいることは紹介されていても、それが地元では「Y路」と呼ばれていること、さらにはこのエリアには伝説の「キン肉マン」と呼ばれるマッサージ嬢がいて、卓越した昇天テクニックを持っているということは、さすがに地元でも一握りの通でしか知り得ない情報なのだ。
僕は、そのY路の存在を確かめるとともに、どうしても伝説のマッサージ嬢「キン肉マン」と面会してみたかった。
会ってみて、できるなら密かに昇天もしてみたい・・・。そんなことも考えていた。少年のような鼓動は高まるばかり。
師匠のバイクの後部座席で、汗びっしょりの両手を握りしめていた。
Y路に差し掛かった。師匠が「ここですよ!」と教えてくれる。
何でも、Y路とは女性の下半身をYの字に見立て、そのとおりに路地の形状がなっていることから来ているのだとか。
ちょうど陰毛に当たる部分には三角形の形をしたバービア。周辺には、びっしりとマッサージ店が群生している。
仲間と立ち寄って好き好きに遊び、終わったらバービアで待ち合わせというのが通の遊び方らしい。
僕らは路地の入り口近くにバイクを止めると、とりあえず一帯を散策することにした。
まだ午後も浅い時間。師匠によれば、マッサージ嬢の出勤時間は夕方かけてに多く、まだ定員の半分にも満たないだろうという。
となると、あのキン肉マンはいるのか?そんなことを考えながら、足を進めた。
結構、可愛いお姉ちゃんがいる。皆、こっちの姿を見つけると「ウェルカ〜ム」と甘ったるい声を掛けてきてくれる。
その都度、僕は針を飲み込んだ魚のように寄せ付けられそうになったが、必死に欲望に耐えた。
全ては、伝説に一歩でも近づきたいという思いで。
「お、いますねえ。キン肉マン。あの方ですよ!」
師匠がおもむろに言った。指差す先には5、6脚ほどの営業用の椅子が並べてあって、数人のマッサージ嬢が座っている。
だが、残念なことに視力の悪い僕には朧気ながらしか見えていない。そこで、さらにゆっくりと足を進めることにした。
だんだんと見えてきた。あと20メートル。ところが、であった。
ん!?何かが違う。
この時、僕の脳天に一筋の強烈な稲妻が落ちた。確かに目指す先には、マッサージ嬢が数人座っている。だが、どうだろう、居並ぶ面々は。
年齢も年齢、皆、おばちゃんじゃないか!浅黒い肌は、健康そうでもあるからまだいい。少しぐらいガニ股だっていい。
タトゥーだってある程度までなら我慢できる。でも、こ、これは、いけない。エロ・マッサージ嬢じゃない。これじゃあ、バンコクで行きつけのいつものマッサージ屋よりイケてないじゃないか!
そこで僕はふと、我に返った。キン肉マンとは、この中の一体、誰なんだ?どの方が伝説の昇天テクニックを持っているんだ。
ただただ教えてもらいたい一心で、師匠を見つめた。そこには、いつもの穏やかな笑顔があった。
「この方ですよ」
「ガチョーン!」
そのおばちゃんは足裏が黒く汚れた右足を左足の上に乗せ、おもむろに両手の指で輪っかを二つ作って微笑んでいた。
お茶目なポーズと言えばそれまでだが、ちっとも可愛くない。イケてない。もっと言えば気持ちが悪い。なのに、なのに、おばちゃんは
「ウェルカ~ム!」
と野太い声で甘ったるく迫っている。見た感じの想定階級はヘビー級。
見事な三段腹に、胴回りは僕よりも豊かなのは確実だった。
それに加え、あの極太フェルトペンで書いたような長方形の眉は一体、何だ!
あんなの、ありか?そんな声が脳裏をグルグルと駆け巡っていた。
ふと、気になることが頭に浮かんだ。
どうしてキン肉マンなんだ?そこで僕は師匠に、その名の由来を尋ねてみることにした。
情報に長けたこの方ならきっとご存じだと思った。
「それはですね~ぇ。むか~し、昔、彼女を指名したあるお客さんがいましてねぇ。マッサージの後のプレイの最中、もだえる彼女の眉間に極太フェルトペンで『肉』と書いたのがきっかけなんですよ。『何、これ?』と聞く彼女に、『福来るという日本のおまじないだ』と説明したお客さん。以来、彼女は好みの客が付くと『肉って書いて』とねだるようになったそうなんですよ!」
にわかには信じがたかったが、世の中は実に奥が深い。
まだまだ知らないことがあるのだと僕はうなった。「肉」と書かれて喜ぶエロ・マッサージおばさん。
それを見て興奮する客。まだ現役をしているということは、今もなお昇天を求めて彼女を指名し、好んで「肉」と書きに来る客がいるということだろう。
オー・マイ・ゴッド!
僕はしばらく、その場で立ち尽くしていた。師匠から声をかけられるまで気がつかなかった。呆然自失とする自分がそこにいた。
一方で、キン肉マンはもうこちらへの一切の関心を失っていた。再び視線を向けようともしなかった。
ただひたすら、店の前を行き交う観光客相手に、野太いセクシー声で営業を続けていた。
バービアで良い出会いに恵まれる!
パトンビーチは、そろそろ夕暮れを迎えようとしていた。キン肉マン騒動の一件ですっかり打ち砕かれた僕を、師匠は馴染みだという普通のマッサージ店に案内してくれた。
マネージャーのタイ人女性が彼氏募集中だと聞かされたが、折れた心で応対できる余裕はなかった。
代わりにたっぷりと2時間ほど入念な古式マッサージを受け、疲れをほぐし店を出た。ちょうど向かいにあるレストランで夕飯を取ることにした。
この地に店を開いて十数年、いや、それ以上になると確か言っていた。
成人した娘さんがいて、時々、店を手伝いに来てくれるのが楽しみだとも。地域の日本人社会の世話役的存在らしかった。
ちょうど、ビールがプロモーションで安かった。大瓶1本が100バーツもしない。師匠と僕は、乾いた喉をシンハビールで潤すことにした。
メニューも多く、料理も美味かった。肉料理にピザ、パスタ。定番のタイ料理もあった。その中のいくつかを注文して、舌鼓を打った。
一通り腹ごしらえが済み、ビールの酔いもほどよく回ってくると、僕のエンジンは再びうなりを上げ始めた。
昨日のプーケットタウンに続く「出会い」への期待が高まっていた。今夜の最初の攻略場所は事前に決めていた。
2番通りを南行した突き当たりに近い一角「オートップ市場」に隣接するバービア街だった。
歩いても15分もしない、そんな距離感だった。師匠と僕は千鳥足でその方角を目指した。間もなくして、目指す灯りが見えて究極た。
バービア街「オートップ」!イサーン地方や北部からの出稼ぎが多いというこのエリア。ひときわ怪しくエロチックな街角に映った。
場内の通路という通路に、椰子の葉で覆われたキノコ型の店舗が所狭しと全部で30、いや40はあっただろうか。
どの店も中央部のスペースに女の子たちが陣取り、ぐるりと360度のカウンター席が広がる造り。
頭上には大きな液晶テレビがあり、サッカーや映画などが放映されていた。店によっては音楽に合わせ、カウンターに上がって踊っている子もいる。
その中で僕らは、やや外れの店を覗いてみることにした。
「キャティー・バー(CattyBar)」とその店は言った。
ママかチーママと思しきおばさん2人と、若い女の子1人が店番をしていた。
おばさんはともかくも、若い子はちょっと可愛い系。幼さが残る顔立ちだった。正直言うと、遠巻きに見たこの子目当てでこの店を選んだ。
女の子は「イン(หญิง)」だと名乗った。東北部(イサーン地方)ロイエット県出身の23歳。
郷里の両親の元に幼い息子を一人残し、出稼ぎに来ていると話していた。ロイエット県といえば、日本の秋田。美人が多いことで知られる県だ。
日本にいたころ、短期間だけ付き合った彼女も秋田出身だったことを思い出した。不思議な縁を感じた。
インはどちらかと言えば、無口な方だった。自分からあれこれと話しかけては来ない。酒を奢ってとも言って来なかった。
妙にそんなところが気に入った。盛んにゲームをして、会話した。
「この子に決めた」
僕の心は決まっていた。ホテルの名と部屋番号を書いたメモを渡すと、彼女は小さく頷いた。先に店を出て、部屋で待つことにした。