シーサケート・ウボンラチャタニー県 (下):早撃二郎のタイ77県珍紀行

チャーミングなタイの女の子とのときめく出会いを求めて
キモオタ肥満男がタイの全県を駆け巡る「早撃二郎のタイ77県珍紀行」は
東北部イサーン地方のシーサケート県とウボンラチャタニー県編のいよいよ最終回。
果たして、素敵な出会いは実現できたのか。

カラオケ置屋で面白い事件に遭遇

ウボンラチャタニー県中心部のチャワラナイ通りから左折して
ソイ・チューンサット2に入った先にあるカラオケ置屋「ホンアーハン・ピーノーン」
※ここが事件の舞台。カラオケ置屋「ホンアーハン・ピーノーン」

大学生と高校生の2人の娘を持つタイ人の呼び込み担当おばちゃんジョイさん(49)と店の前で世間話に興じていた僕は
いきなり大きな音を立てて一台のピックアップトラックが店に横付けしてきたことに驚いた。
時間はもう良い感じの夜11時。辺りはすっかりと静寂に包まれていた。
トラックからは男女3人が降り、ドカドカと店内に入っていった。

何事だろうかと見ていると、5分ほどして店内からくだんの女性が姿を現した。
店内にいたと思われる客らしき男の髪の毛を引っ張っている。何か叫びながら、しきりに男の顔や頭を平手打ちや拳で叩いている。
一方で、一緒にいた年配の男女は、表に止めてあった一台のバイクを軽々と持ち上げて、トラックの荷台に積み出した。
髪の毛を引っ張られていた男は後部座席に押し込まれ、女性がドアを大きく閉める。
男女二人が運転席と助手席に乗り込むと、トラックは後ろのタイヤをスピンさせて勢いよく去って行った。

あっという間の出来事に、僕はただ口を開けるしかなかった。

「何があったというんだ。一体?」

すると、ジョイさんが笑いながら解説してくれた。男は、ここから10分ほどのところに住むタイ人の常連客。
仕事は真面目にするのだが、夜になると女を求めて、しばしばこのカラオケ置屋に足を運んでいたのだという。
酒を飲み、カラオケを楽しんだ後は、2階のちょんの間で好みの女とメイクラブ。
明け方前には、何食わぬ顔でバイクで家に帰るパターンが日課だった。今日が、まさにその日だった。

男には妻子があり、店に来る時はもっぱら「幼なじみの友達と飲みに行く」と告げていたという。
ところが、この日はアリバイが崩れたらしく、ここで女といることが妻にバレてしまった。
年配の男女はその両親。怒り心頭の妻が、両親を連れ立って夫を捕まえに来たのが事の顛末だった。
そしてジョイさんは、こうも付け加えて笑った。

「今回が初めてじゃないの。いつものことよ」

何と言うことか。タイ人妻恐るべし。タイの家庭では、夫が「マスオさん」として妻方の実家に入ることが少なくない。
ちょっと羽を伸ばしただけでも、このように犯罪者扱いされるのではたまったもんじゃない。
ゆくゆくはタイ人女性を嫁さんにもらおうかとも考えていた僕。この日ばかりは少し引いてしまった。

ウボンラチャタニーのMPへ潜入

すっかりと酔いが覚めてしまった僕はジョイさんに勘定をお願いすると
この日のうちにのぞいておこうと思っていたマッサージパーラー(MP)に向かうことにした。
ショッキングな出来事で心は少し折れかかっていたけど、明日の夜にはウボンを離れ、バンコクに向かわなくてはならない。
ミッドナイトは今夜だけだった。

ウボンのMPと言えば、老舗の「ATAMI(熱海)」と相場が決まっていた。
自ずと知れた静岡県の「熱海温泉」から採ったものだ。オーナーがかつて、日本を訪れた際に立ち寄ったのだろう。
※マッサージパーラー「ATAMI」外観

場所は置屋街からタクシーで7~8分ほど。敷地内に入ると、壁一面に飾られたMP嬢の大きな肖像画が僕を待っていた。
「おお、これこそMP!」
風俗の王者の地に足を踏み入れたことで、萎えかけていた心に、ポッと希望の灯りが蘇ってきた。

入口から店内に入って正面には三段ほどの雛壇が、左の奥にはサイドラインがあった。
雛壇はタマダー(普通)で、金額は1500~1700バーツ(90分、以下同)。
サイドラインが2200~2600バーツとコンチアが教えてくれた。時間が遅かったためか、雛壇には昔で言えば年増のおばさんばかり5人ほど
。何人かが手招きしていたが、お相手はちょっと難しいと思った。一方、サイドラインにも女の子が5人ほど。
ただ、照明が暗く表情がよく分からない。うち一人は珍しくビキニ姿だったが、いずれもニッコリともしてくれなかった。
勇んで入ってみたものの、時間帯もネックとなって踵を返した。

ウボンにはもう一つ、「パレス」というMPもある。宿泊していた「トーセーン・シティ・ホテル」からもほど近い。
相場は1800~2500バーツ。
※マッサージパーラー「パレス」外観

営業時間は正午から深夜零時までで、残念なことにタッチの差で入店することができなかった。

ウボンラチャタニーの見どころを回る

翌朝、朝早く目覚めると、朝食もそこそこに僕はホテルをチェックアウトした。
今日はウボンの史跡や観光地の数々を回らなければならない。
そのうちの一つ、最初に向かったのが市街地にある木造の寺院「ワットバン・ナ・ムアン」だった。
蓮の池の中に浮かぶように建つ木造の建築物で有名なこの寺。
約200年前の建立なのだというが、実はこの建物は本堂ではなく、経典を収める書庫なのだという。

ありがたい経典を、虫食いやねずみなどによる被害、さらには火災から守るために、こうして池の中に書庫を建てたのだとか。
敷地内からは長い木造橋が池の中の建物に向かって真っ直ぐに延びている。
中はどうなっているのかと思い、橋を渡ってのぞいてみると、書棚の陰から数頭の犬がノッソリと出てきて驚いた。
建物の屋根は六重の塔ならぬ6段重。タイ式は3段重で、ラオスの建築様式が採り入れられているということだった。
※ワットバン・ナ・ムアンの境内。蓮の池の中心に建つ木造の書庫

※足元の薄い木の床がギシギシと子気味いい音を奏でる

※書庫の中は長年の埃や汚れがこびりついており年代を感じさせる

次に向かったのは、ラオスとの国境メコン川の河川敷に広がる「タイのグランドキャニオン」の
愛称で名高い「サム・パン・ボーク」だった。
隆起した川底の岩棚を水が浸食して作ったという大小さまざま計3000個にも及ぶ穴、穴、穴。
「サム・パン」が3000、イサーン・ラオス地方の言葉で「ボーク」が穴を意味した。

この場所に向かうには、上流にあるサム・パン・ボーク展望台から、まずは取り付け道路を使って岩肌の河川敷に降りなければならない。
自家用車でも行けるかもしれないが、ゴツゴツした岩にわずかに刻まれた一筋の走行ルートをくねくねと折りたたむように走るので
素人がたどり着くのは至極困難だ。
駐車場だってあるかどうか分からない。往復で一人200バーツのソンテウ代の利用がお勧め。中継地点まで15~20分ほどの岩の旅だ。

到着すると、岩の上に粗末なテント小屋が2棟ほどあるのが見えた。
売店兼ガイドの休憩所らしく、客が着いたのを見届け出て、幾人かがのそのそと出てきた。
※サム・パン・ボークの一部。ここが雨季は川の下に沈んでいるなんて驚きだ

※中継地点にある売店では飲み物から軽食まで食べられる

※このソンテウで河川敷に下っていく。揺れがかなり激しいので手すりにしがみつくのをオススメする

辺りは一面の岩畳、穴、そして崖。とてもではないが、独力で観光しようという気持ちにすらなれない。
そこで僕は、明るく声をかけてくれたおばちゃんにガイドを頼むことにした。
料金は客次第だといい、200バーツを払った。

おばちゃんは地元出身のメーオさんと言った。年齢は60歳と話していたが、とてもそんな年齢には見えないほど若々しかった。
メーオさんは岩肌をスイスイとリズミカルに上下していく。
そのたびに僕は遅れを取って、少し先で待ってもらうことの連続だった。
※ガイドのメーオさん。彼女のカバンの中には医薬品が入っている。
お客さんが転んですりむいたりすると応急措置もしてくれるそうだ。

至るところに点在する穴は、浸食の偶然から、犬や亀などの生物や星の形にも見える。
中には、ディズニーランドでおなじみのミッキーマウスの頭に形状が似た穴もあった。
また、高さ10メートル前後の崖になっている場所や、空中に一枚岩が突き出たところもあって、グランドキャニオンとはよく言ったものだと思った。
恐ろしいことに、メーオさんはそれらの崖や一枚岩の上に乗れと僕に言う。
親切心で記念写真を撮ってくれるというのだが、足がすくんでそれどころではなかった。

結局、岩や穴の一部しか見て回ることができなかったが、それはそれで満足だった。
十分に堪能したし、さっきから膝が笑って止まらなかった。
帰りのソンテウが待つテント小屋にたどり着いた時は、喉が干からび我慢ができぬまま水を買い求めると一気飲みした。
かつてない美味い水だった。

※これだけ無数の穴があると異世界に来たような不思議な気分になる
※ボートで遊覧も楽しめる
※ハート形の穴もある。ガイドのメーオさん曰く左側が女性で右側が男性らしい。カップルに人気のスポットだ
※ミッキーマウスに形状が似ている穴。ここは撮影に人気スポットだ

続いて目指したのが、サム・パン・ボークからほぼ南に約40キロ。
やはりラオス国境に近い「パーテム国立公園」だった。岩山と深い森林の谷が織りなす340平方キロメートルもの広さを誇る自然公園。
巨大な岩山の端は標高差100メートル近い断崖絶壁となっていて、腰を引いて恐る恐るのぞき込むのがやっと。
岩の頂上付近は吹きっ曝しの強い風が絶え間なく吹いていて、真っ直ぐ立っていることも困難だった。
※公園の入場料は外国人は400バーツとかなり高めだ

ここを訪れようと思ったのは、この岩山の随所から先史時代の壁画(パープ・キアン・シー)が多数見つかっているからだった。
人や魚、馬など大小さまざまな300を超える壁画。考古学の専門家によれば、書かれたのは今から約3000~4000年前。
エジプト文明やメソポタミア文明よりも古いことになる。どうして、ここにこのような壁画があるのか詳しいことは分かっていない。
付近一帯からは、古生代の貝の化石なども見つかっている。
※パーテム国立公園に入って一番初めに見られるキノコ型の岩

※4か所ある壁画の中で一番くっきりして見やすいのが2番目の壁画だ

※壁画を描いたであろう人の手形

この日、最後に立ち寄ったのが、これまたラオス国境に位置する仏教寺院「ワット・シリントーン・ワララーム」だった。
小高い丘の上にあり、ラオス方面に向けて広がる一面の森の景色もなかなかの壮大な眺め。
そして、何よりもタイ人観光客の間で隠れたSNSのスポットになっているのが、夕暮れ時刻以降に浮かび上がるこの寺の神秘的な姿だった。

一般的に建築物が夕闇の中に光を帯びる時、その光源はライトアップが最もポピュラーだ。
ところが、この寺ではその方法は使っていない。
ワット・シリントーン・ワララームでは、主要な梁、囲い、手すりや建物の縁などに蛍光塗料を塗り、これが光を放つように設計してある。
このため、時間の経過とともに塗料は剥げ、放つ光も弱くなる。塗り直すことで明るさを維持しているのだという。
※「ワット・シリントーン・ワララーム」外観

※寺の裏側の壁には世界樹?のようなものが描かれ、寺の周りには模様が描かれている

訪ねたこの日夕方も、多くのタイ人カップルが日の入りを今か今かと待っていた。
ゆっくりと夕闇が広がっていく中で、次第に浮かび上がってくる本殿や仏閣が鮮やかに輝きを増していた。
そのすぐ近くでは、静かに肩を抱き寄せ、愛を確かめ合うカップルの姿。
うらやましく、「この場所で可愛いタイ人の女の子とデートができたなら」と僕はそんなことを考えていた。
彼女のいない寂しさを噛みしめながら、山を下りることにした。

・・・つづく。