ナコーンラーチャシーマー県 (下):早撃二郎のタイ77県珍紀行

可愛いタイの女の子との出会いを求めて、キモオタ肥満男がタイの全県を駆け巡る「早撃二郎のタイ77県珍紀行」は、いよいよ東北部ナコーンラーチャシーマー県の最終回。前夜、カラオケ店を舐めるように堪能した僕は、あらかじめ師匠から当地のオススメ情報をゲット。それを頼りにイサーン地方最大の県コラートの歓楽街めぐりをしようと画策していた。「最初はマッサージ偽装置屋からでしょ!」という強いサジェスチョンを受けて向かった先は、カラオケ店も点在するジョムスラーンヤート通り。ここから片っ端に店を覗いてみることにしたんだ。

マッサージ偽装置屋に突入するも

いやいやいや、「偽装」というのに、公然と営業しているのには驚いた。その中でも、まず、目に止まったのが自称マッサージ店「メイフア」。看板に書かれた店名を見るなり、一瞬、釘付けとなった。漢字で書くと「梅花」となるこの店。熱烈なファンだったら知っているはずだろうけど、アジアの歌姫テレサ・テンの中国語の名曲「梅花」から取ったものだと思われる。優しい声に美しいメロディー。粋な店名に脈ありと感じた。
ドアを開けて店内に入る。ところが、なんだか少し薄暗い。
見ると、右側すぐのところには貧弱な雛壇があった。数人の女と、マネジャーだろうか一人の男が寝転びながらスマートフォンをいじっていた。
女は身なりから、マッサージ嬢と推測ができる。だが、極めて残念なことに全員が見た感じ40歳代以上。
それだったら、スクンビットの小綺麗なおばちゃんにマッサージしてもらったほうがいいやと肩を落としていると
奥の方から30歳代後半と思われるショートカットの別の女が姿を現した。

「お客さん、初めて?日本人?」

マネジャーを名乗る女は盛んに質問してくる。しかしながら、好みとはほど遠く、垂んだ三段腹ばかりに目が行ってしまう。
諦め掛け、受け答えもいい加減にしていると、今度は近くに寄って来て耳元で「私でもいいのよ」と甘ったるい声。
お世辞にも、お相手は勘弁してほしかった。「また、今度ね」。引き攣った面にそうウインクして店を出た。
マッサージ90分で300バーツ。スペシャルは1000バーツと説明していた。

続いて門を叩いたのは、メイフアの隣にあるこちらもマッサージ偽装置屋。
外観の安っぽい造りに期待は持てないだろうと、端っからテンションは上がらなかったけど

「思わぬ出会いが待っているかもしれませんよ!」

という師匠のアドバイスを思い出し、いざ突進。

見ると、看板には「ハッタ・ウェート」とあった。そうか、思い出した。
「ハッタ」とは古いタイ語の書き言葉で「手」のこと。今でも「工芸(ハッタカーン)」などに残っている。
「ウェート」は「医」を表す接頭辞。「医療(ウェーチャカム)」などに名残がある。
つまり、「ハッタ・ウェート」とは、ずばり手に依る医療、すなわち「マッサージ」のことだ。
単なる置屋なのに、ここまで偽装するのか!そう思って僕は扉を開けた。

「いらっしゃいませ~」

ここも店内は薄暗かった。所々に丸テーブルと椅子があって、店内で酒が飲める仕組みらしい。
雛壇らしきエリアもあったが、さっきの店より年齢層は高く、とてもではないが、お相手は勘弁してほしかった。
マネジャーは色艶の良い30歳ぐらいの女性。さすがに「私もいいのよ」とはなかったけど、明るく笑顔で戸外の写真を撮らせてくれた。料金はマッサージ2時間300バーツ。スペシャルは変わらなかった。

足取りは重くも、僕の探索は続く。ハッタ・ウェートを出て、隣にあったのが前回紹介したカラオケ店の「花見月」
さらにその隣にあるのが、目指す3軒目のマッサージ偽装置屋の「エラワン」だった。
ご存じ、バラモン教やヒンドゥー教の神インドラが乗る頭部が3つある象のこと。
インド神話に出てくる白い象で、ヒンドゥーの世界では「アイラーヴァタ」と呼ばれている。
由緒正しい店名なんだろうけど、やっぱりここも偽装置屋に他ならなかった。なんだかなあ、である。
店内に入ると、すぐ左に雛壇。
3人の女の子がスマホを熱心にいじっていた。目を凝らすと、いずれも10歳代末から20歳代前半という若い面持ち。
だが、ちょっと残念。田舎臭さが抜けきれておらず、これでは年端のいかないハナタレ娘に××マッサージをしてもらうことになってしまう。
年齢差もあるし、村を出てきたばかりの小娘にとてもそんなことはできない…。

そんなことを思いながら躊躇をしていると、金髪のマネジャーと称する赤いTシャツ姿のおばちゃんが突如姿を現した。

「ウチは若い子ばかりなんだからね。遊んで行きなよ!」

と、まるで大阪弁でまくし立てるような話しっぷり。「いやあ~。そのお~」と迷っていると、Gパンに黒の上着を羽織った男も奥から出てきた。
聞くと、二人は夫婦とか。宮川大助・花子にそっくりだと思った。
二人とも、かなりフレンドリーな性格で、腕をつかんで客引きなどという乱暴なことは一切しない。
日本語も多少でき、ノリも良く、おそらく地元駐在の日本人らの溜まり場の店なのかもしれない。
一通り話しをした後は、店の前で二人揃って元気にポーズもしてくれた。話しただけでも、気持ちよく店を後にすることができた。
マッサージは2時間300バーツ。スペシャルは1300バーツだそうだ。

コラート名物「立ちんぼ」探しへ

さぁて、一通りマッサージ偽装置屋の現状視察も済んだところで、今後は「コラート名物」と師匠から紹介のあった「ザ・たちんぼ」を観察してみることにした。
説明はもう不要だろう。公園や商店街などの一角。夜になるとケバケバの化粧をした女が街角に立ち、通りすがりの客の男を待つ、あるいは声をかけるあれだ。
バンコクではいくつか見てきたものの、地方都市ではそれがどんなものか、僕は興味津々だった。

事前情報によれば、それはジョムスラーンヤート通り中ほどの日本食レストラン「姉御」の前にあるという。
ただし、女の立つ時間は遅く、早くても日付を変わる数十分前から。そこで、僕はすっかり抜けきったアルコールを体内にもう一度充填させるため
近くのタイ飯屋に足を運び、好みのリオ・ビールで喉を潤し時間をつぶすことにした。

午前零時、いよいよ出発だ。遠目に見る姉御はすでに閉店しているように見える。
すると、どうだろう。店の前にポツンポツンとプラスチック製の白い椅子が2脚。通りを挟んで、向かい側の商店らしき店舗の前にも同様に2脚。
開店だ。後に分かったことだが、3時間ほどの限られたショータイムが始まった瞬間だった。
千鳥足で現場に近づく僕。姉御の椅子にはスマホ片手のお姉ちゃんが2人。通りの向かいにも2人。総勢4人。
ところが、不覚にもフラフラ足の僕に声を掛けてきたのは女ではなく、すぐ近くに立っていた冴えない男。
見るからにヒモのようで、異常な痩せ方をしている男だった。

「なんだ、コイツ!」

そう思っていたところへ、いきなり相手は話をし始めた。

「兄さん、女どう?」

なるほど、コイツがマネジャー役か。鋭い目つきに、慣れた手振り身振り。
一回戦1000バーツから1200バーツで、近くにある「シリ・ホテル」が戦いの場だとか(部屋代250バーツ別)
師匠の事前情報では、かつて「チャオプラヤー・イン」というホテルがあったが、名称も変わり、今では使われていない様子だ。
男はしきりに持ってけ、と顎でしゃくる。この間、女はずっとスマホを見入ったままだった。

好みでもなく選べないでいると、男は持っていたスマートフォンを差し出して、「日本人の好きな女いるよ」と画面を繰り始めた。
次々と映し出される女の写真。部分的な着衣すらも一切つけていないモロ出しの写真もある。
しかも、皆、一様に若く可愛い。「本当にこんな娘が?」と思案していると、男は見透かした様子で、「ダイジョブ!本当に可愛いコいるよ」と押してくる。
いずれも1時間2000バーツが相場と話していた。

男の話では、毎夜、ここで客引きをしているのだという。
時間は概ね午前零時から3時ごろまで。常連客には携帯番号を伝えているといい
予約があるか、3時を過ぎても女の子がいれば、ホテルや自宅まで送迎もすると話していた。
ある種のデリバリー機能も持ち合わせているようだった。コラートの「管理たちんぼ」恐るべし!

それでも僕はまだ、選べずに悩んでいた。時間は刻々と刻み続ける。
間もなく午前1時を迎えようとしていた。う~ん。僕は思案に思案を重ねた。

「もう少し飲んでから考えるか」

そう決断して、男に「また来るよ」とだけ告げて、くだんのタイ飯屋に再び向かった。

・・・つづく。