第41話:半同棲14日後 僕の大切な想い出は宝物

またいつかガールフレンドにしてくれる?

彼女の目には涙が…、僕の目にも…、もう終わっちゃうのかなぁ…、僕は、彼女の前にそっと手を差し出した。
最後に彼女と握手をして別れたかったからだ。別れの最後はけんか別れはしたくない。
僕は彼女の手を握ると優しく微笑んで彼女に言った。ありがとう。彼女はただ僕を見つめるだけだった。
本当はずっとずっとその手を放したくなかった。本当は別れたくなかった。でもいまのままではいつかまた別れがやって来る。
僕は彼女の手をそっと放した。それが彼女と最後の触れ合いになるのか?彼女はベッドに座ったまま僕を見つめ何か言いたげだった。
僕はそれを受け止める事が出来なかった。今の僕には言葉の壁が重荷だった。愛さえあればなんて、嘘?、とさえ思って来た。
お金があれば?、それも嘘だ。例えお金があっても愛を育むにはお互いの気持ちを分かち合う事が不可欠だと。
そしてそれをするには…、愛があれば言葉なんて…、これも嘘!言葉無くして気持ちなんて伝わりっこしない。
もう過去の事はすべて水に流して…、いやそれは…
彼女との楽しかった思い出はいっぱい…
部屋を出て外でバイタクを呼びふと振り返ると、彼女が窓から顔を出しこちらをジッと見つめていた。
一瞬前回の時の事を思い出した。ただ今回は前回と違うと思う。たぶん二人とも精一杯お互いを理解しようと試みたと思う。
一度別れてもすぐにお互い会いたくなって…、それでもやっぱり結果は同じだった。今はこれ以上は望めないと思う。
彼女を愛しているなら望んではいけないのだと思う。
彼女はまだまだ若いし、僕みたいなおやじに縛られるのはきっと可哀相だ、とさえ思いはじめてきた。
そう彼女の幸せの為に僕は留まってはいけないんだ。張り裂けそうなこの思いをぐっとこらえて、彼女に手を振った。
彼女も手を振ってくれた。お互い納得の別れだった。バイタクは僕達のそんな気持ちなんて関係無しにどんどん飛ばし、彼女の姿は見る見る間に小さくなった。

シャッターの数だけ愛してる

帰りのバスの中で彼女との事を思い浮かべた。
残ったものは、寂しさ?、虚しさ?いいえ、楽しかった思い出がいっぱいあった。
僕のスマホの彼女のフォルダの中には、実に1500枚にのぼる写真・動画が保存されていた。
そう思うと彼女が僕の写真を撮ったのは… 少ししか無いかな?やっぱり愛の一方通行だったのかな?それでもいいじゃないかな?
僕は彼女にたくさんの幸せを貰ったんだし。実際彼女がどうだったのかわらないが、お互い楽しい時間を過ごせた時もあると思う。
僕の大切な想い出は宝物。バスの出発まであと10分。突然メッセージが入った。

>お母さんの事、ごめんなさい、いま私たちは夫婦になるより良い付き合いを始めたと思います 
<僕もそう思うよ、ありがとう、愛してるよ 
>私もとても愛してる、ごめんなさい 
<僕もごめんね 
>… 
>あなたに会いたい… 
<本当に? 
>はい 
<いまバスが来た。あと5分でバスが出る。もし戻って欲しいなら5分以内に… 

感情的な別れの後、5人に4人は別れを後悔すると言う。
この場合、相手が最も気にするのは「まだ相手が自分の事が好きかどうか。
復縁しようと思えば出来そうか。」という事だ。
別れの後に、相手から様子を伺う様なメッセージが来た場合、気持ちや状況を確認したから?

落ち込んだ僕の心を癒してくれるのは誰?

それからメッセージはなかった。余計な期待をした分、複雑な気持ちが増した。
僕はバスを降りる事はせず、バスは静かに動き始めた。もしかして僕を試したのだろうか?まだやり直せるのだろうか?
仲間への報告も出来ず、バンコクの自宅に到着した。複雑な気持ちで荷物を片付けた。
いつもの自分の部屋なのだがこれほど広く感じた事はなかった。
彼女は後ろを向き、目を合わせなかった
なのに寂しさが部屋の空間を覆ってしまい、身動きが取れなくなってしまって…何やってるんだろうね。
そんな声があちこちから聞こえそうだった。そんな息が詰まりそうな空間を、ひとつのメッセージが届き、僕の心を明るくしてくれたのだった。
それは何?

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